現在、認知症の方とその予備軍の方の人数はどんどん多くなってきています。
その認知症の中でもアルツハイマー型認知症の人は全体の60%以上を占め、
「認知症=アルツハイマー型認知症」
と思っている方もいらっしゃるかもしれません。
認知症の一番のリスクは「加齢」と言われています。加齢に伴い脳神経細胞が減っていき、脳の萎縮が進むのです。ですが、アルツハイマー型認知症の場合はその脳の萎縮が著しく、特に海馬周辺で萎縮が顕著に見られるという特徴があります。そして、この脳の変化は発症の10~15年前には既に始まっています。
アルツハイマー型認知症は現在も特効薬はありませんので、いかに予防するか、発症してしまった場合、いかに進行を遅らせるかが大事になっています。
現在、65歳以上の7人に1人は認知症かその予備軍と言われており、年齢が上がるごとにさらにその人数は増えていきます。
認知症になると、今までできていたことができなくなったり、なにか約束したこと自体を忘れてしまうという事が起こり
「こんなはずではない」
「何かおかしい」
と本人は不安に苛まれるようになります。そして周りの人も
「どう接したらいいのかわからない」
と接し方に戸惑うようになります。
この記事ではアルツハイマー型認知症とはどんなものなのか、予防法、周りの人の対処法などを紹介しますので、ご自身が不安な方も、周りの方がアルツハイマー型認知症の疑いがある方も参考になさってください。
目次
1 アルツハイマー型認知症の症状とは
アルツハイマー型認知症の初期の状態は加齢による物忘れとほとんど変わりません。でも、急に病状が進んだり、約束や体験そのものを忘れるようになってくるのがアルツハイマー型認知症の特徴です。発症の初期に対処できればそれだけ進行を遅らせることも可能なので、まずはアルツハイマー型認知症がどんなものなのかを知る必要があります。
1-1 アルツハイマー型認知症の症状
認知症の人に必ずみられる代表的な症状を中核症状といいます。
以下が代表的な中核症状です。
近時記憶障害
直前に聞いたことややったことを忘れてしまう。何度も同じことを繰り返したり尋ねたりする
遠隔記憶障害
過去に蓄積した記憶が失われ自分の生年月日や仕事歴家族の顔や名前を忘れてしまう
見当識障害
日付や時刻、人との関係など自分の現在の状態がわからなくなる
実行機能障害
家事などの作業が手順にのっとってできなくなったり計画的に行動することができなくなる
判断力の障害
道筋を立てて考えることが困難。ものごとの善悪、真偽が決められない
これとは別に周辺症状と呼ばれる症状があります。
これは認知症の方の個人の性格や人間関係、生活環境などが複雑に絡み合っておこるものです。
例えば抑うつ、睡眠障害、徘徊、暴力、過食、不安などです。
1-2 アルツハイマー型認知症の脳の状態
アルツハイマー病の人の脳には”特殊な病変”があります。
老人班・・・特殊なたんぱく質アミロイドβが蓄積されシミ状になります。
神経原線繊維変化・・・神経細胞の内部にタウたんぱく質というたんぱく質が異常に溜まり繊維化した状態になります
老人班が蓄積され、沈着すると記憶や脳の機能に障害が出てきます。
神経源線繊維変化が起きると神経伝達物質のやり取りが阻害されるようになり、これが進むと神経細胞が死んでしまいます。
この二つの状態が脳で起きることによって脳の機能が阻害され、脳の萎縮が進みます。
この状態が脳の中で最も早く、最も強く起こるのが、記憶を司どる「海馬」と呼ばれる部分です。そのためアルツハイマー病の患者の方の脳のスキャンを見ると海馬を中心に脳の萎縮が進んでいる病変を見ることができます。脳の萎縮が始まります。
1-3 アルツハイマー病の進行過程
アツルハイマー型認知症は以下のように病状が進んでいきます。
通常期 | 健康な状態 |
・40歳頃からは予防が必要な時期 ・加齢による物忘れが多いと感じるようになる |
軽度認知症(MCI) |
・物忘れが増えるが自覚している ・身の回りのことは一人でできる ・検査をすると認知症ではない |
|
初期(健忘症) | 発症から約1~3年 |
・物忘れが増えるが自覚している ・昔のことは比較的覚えている ・自発性が低下する ・判断力が低下する |
中期(混乱期) | 発症から約2~10年 |
・つい最近のことも忘れる ・体験したことそのものを忘れる ・昔のことを思い出せなくなる ・時間や場所がわからなくなる ・徘徊・せん妄などの周辺症状が増える |
後期(認知期) | 発症から約8~12年 |
・会話ができなくなる ・食事、排泄など身の回りのことができなくなる ・運動機能が低下して寝たきりになる |
コラム
アルツハイマー型認知症はいつ発見されたのか?
アルツハイマー病はドイツのフランクフルトの精神科医アロイス・アルツハイマーが発見しました。
記憶障害などで診察をした51歳の女性の死後、脳を解剖し、老人班、神経原線繊維変化などアルツハイマー病の特徴と言われる所見を1906年にドイツの精神医学会で報告したことが最初です。
現在に至るまで研究は進められていますが、いまだにアルツハイマー病に対して特効薬はありません。
2 認知症とアルツハイマー
アルツハイマーの初期の症状はほかの認知症と変わりません。ですが、この初期の段階で適切な治療をするのが後の進行を食い止めるのにとても重要です
2-1 認知症チェックリスト
□曜日や月がわからない
□よく知っているはずの道がわからない
□住所や電話番号を覚えていない
□物がいつもしまわれている場所を覚えていない
□物がいつもの場所にないと見つけることができない
□電気製品を使いこなせない
□自分で状況に合った着衣ができない
□買い物でお金を払うときに混乱する
□体の具合が悪いわけではないのに行動が不活発になる
□本の内容やTVの筋がわからない
□手紙が書けなくなった
□数日前の会話を自分から思い出せない
□会話の途中で言いいたいことを忘れることがよくある
□よく知っている人の顔がわからない
※これらに当てはまる項目が2つ以上あれば認知症の疑いが高いので病院の受診がまだの方は一度受診をしてみてください
2-2 アルツハイマー病は早期発見が重要
アルツハイマー病は発症した場合、完全に治す薬や治療法は残念ながらまだありません。
そのためアルツハイマー病と診断されたら進行を遅らせ、病気の危険因子を減らすことが主な目的になります。
初期の段階で適切な治療を行えば病状の進行を遅らせる効果も高まります。そのため、上のチェックシートなども使ってチェックしていただき、早い段階で治療を始めることがとても大切です。
2-3 アルツハイマーの治療法
現在のアルツハイマー病の治療方法は主に3つです
薬物療法
アリセプト
アルツハイマー病は脳内の神経伝達物質のアセチルコリンが減少していきます。この減少を食い止めるように開発された薬で、アルツハイマー病の代表的な薬といえるかもしれません。この薬は「軽度及び中程度のアルツハイマー病による認知機能障害の進行抑制に効果がある」と認められていますが効果には個人差があり、何割かの人には効果が現れない場合があります。また、暴行や徘徊などの周辺症状が増えてしまうケースもあるので、医師によっては使用を勧めていない人もいます。
その他にも周辺症状を改善する薬や新薬もでてきています。
ですが、薬を使うことに懐疑的な医師の方もいらっしゃいますので、詳しくはご自身の主治医の方と相談して使うようにしましょう。
非薬物療法
アルツハイマー病は安静にしていて病状がよくなる病気ではありません。むしろ積極的に脳の機能を使うことが大事です。
・知的好奇心を持つこと
・できるだけ手足を使う運動をすること
・いろいろな人と会話をすること
が大事です。アルツハイマー病の治療の過程において脳に刺激を与え、神経伝達物質のやり取りをさせることは海馬や大脳皮質の様々な領域が活性化します。ただし、この刺激は本人が楽しいと感じ、興味や関心が向けられるものでなくてはなりません。
介護
本人に安心、安全の感覚を与えること
アルツハイマー病になると、それまでの人格とまったく変わってしまったようになる場合も多く、介護される方には大変なことも多いでしょう。アルツハイマー病の介護期間は長くなる場合もあります。根を詰めずガス抜きをすることも大切です。
2-4 非薬物療法あれこれ
まだ決定的な治療法がなく、薬の賛否も分かれている今、非薬物療法はとても重要です。
・好奇心を高める療法
知的好奇心を高める治療方法としてアートセラピーや音楽療法があります。音は聞くだけではなく、自分の口で大きな声を出して繰り返し読んだり、歌ったりすることが大切です。このほうが複数の脳への刺激になります。
音読は好きな本や般若心経などのお経、百人一首などなんでも構いません。カラオケも良い刺激になります。
・運動療法
適度な運動によって大脳皮質の萎縮が抑えられるという報告があります。また、運動をするとアルツハイマー病の原因とされているアミロイドβタンパクを分解する酵素の分泌が増えて、タンパクの沈着が減少したという報告もあります。
カナダで約9千人を対象にした調査の結果、歩行より強いレベルの運動を週3回以上の頻度で行ったグループは全く運動を行わなかったグループに比べてアルツハイマー病の発症率が約50%低かったという結果もあります。
・食事療法
栄養バランスのとれた食事をきちんと摂ることは病気の進行を抑えることにつながります。
食べすぎはアルツハイマー病の危険因子になりうるという報告もありますし、アルツハイマー病の患者さんの多くは野菜をほとんど食べない、甘いものばかり摂っているなど食生活に偏りがあることがわかっています。
3 身近な人がアルツハイマー病になったら
アルツハイマー病の初期の段階は患者さんのできることを維持し、進行を抑えることが課題となりますが病気が進行すると中核症状や周辺症状が現れていずれ介護が必要になります。この章では介護する際の注意点や提案を紹介します。
3-1 完璧な介護を目指さない
介護はとても大変です。介護をしたことが実を結ぶときもありますが、思い通りにならないこともたくさんあります。
「毎日散歩をしよう」
「一日30品目の食事を食べてもらおう」
と決めて取り組むのはよいのですが、気分の乗らない日もあれば体調の悪い日もあります。そんな日は
「今日は散歩をやめてのんびりしよう」
など臨機応変に変更することも大事です。患者さんに対して
「自分はこんなに頑張っているのになぜわかってくれないのだろう」
という思いをもってしまうこともあるかもしれません。イライラや不安は伝染しますので、長続きする介護のためには介護する人とされる人のベストな方法を見つけていくことも大事です。
3-2 役割分担をきめる
介護をするときに「残された夫婦だけで」など、介護者の輪を極力小さくしようと考える方がいますが長続きする介護のためには
「一人で悩まない」
「役割分担をきめる」
ことが大切です。家族で介護する場合は中心となって介護する人と散歩、食後のテレビを見るのは誰か別の人というように分担するのが大切ですし、介護保険サービスを使うのもよいでしょう。
介護者が心身ともに健康であることが介護の質を高めることにも繋がります。
3-3 愚痴をこぼせる場所をみつける
介護する苦労はアルツハイマー病の患者さんと生活をともにしてみなければわかりません。
アルツハイマー病はだいぶ一般的に認知されてきていますが、周りに同じ悩みを抱えている人がいないという方もいらっしゃるでしょう。
その際は市区町村の福祉課や介護施設に行ってみてください。各地域には認知症の家族を抱える方の家族会がありますのでそれを教えてもらえます。
また、デイケアセンターなどの福祉施設に行って苦労していることを相談してみるのも方法です。同じ悩みを抱えている人と話ができるとそれだけで大きなストレス解消につながります。
4 アルツハイマー病の介護の基本
アルツハイマー型認知症の症状が進んでいくと介護が必要になっていきます。
この章では自宅で介護をする場合の気をつけるポイントをまとめてあります。
自宅で介護をするのは大変な部分も多いですが、アルツハイマー型認知症の患者さんには些細なきっかけを気づいてあげることも大事なので、ご自身の負担を減らすためにも以下のことを気をつけてみてください。
4-1 自宅にある危険なものをチェックする
病状が進行すると、患者さんは危険なものとそうでないものの区別がつかなくなっていきます。
刃物やライターなど危険が予想されるものは患者さんの手が届かないところにしまってください。
また、徘徊が多い患者さんには玄関の内鍵を簡単に開かないものにして短時間の外出でも鍵をかける習慣をつけるもの大事です。
4-2 スケジュール表を作って健康管理をする
患者さんの健康は規則正しい生活リズムの中で維持します。そのためには一週間のスケジュールを作り、これに沿って一日のスケジュールを組んでください。
スケジュールに無理があると思ったら作り直してください。患者さんは病状が進行すると次第に自分で体の不調を訴えられなくなります。そのため、介護する方が患者さんの健康状態をチェックし、変化を発見する必要があります。
4-3 寝たきりにさせない
アルツハイマー病は静かに寝ていても回復しません。むしろ進行を早める可能性が高くなります。
病状の進行を防ぐためには患者さんを寝たきりにさせないのが初期の段階にも中期の段階にも必要になります。
4-4 プライドを傷つけない
アルツハイマー病の患者さんは通常では想像できないような言動をすることがあります。このときに小さな子供を叱るような態度をしたり笑ったりすると周りの人が思う以上に患者さん自身はプライドが傷つけられたと感じます。
患者さんと接するときは即座に叱ったり間違いを訂正したりせずに、他のことを話題にしてみたり、興味をそらすようにするのがよいでしょう。
さいごに
アルツハイマー病には現在完治させる薬や治療法ははありません。罹ってしまったら進行をどのように遅らせるかが課題になります。
また、介護期間も長くなる場合が多いため、無理をなるべくしないようにすることが重要です。
介護保険サービスの利用や介護情報などを調べて使用できる制度は最大限に活用しましょう。
介護保険は市区町村の高齢者福祉課、地域包括支援センター、介護保険の窓口、高齢者総合相談センター、社会福祉協議会などで話を聞くことができます。
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